「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)」ってなんだ?スタジオエンジニアに詳しく聞いてみた!

こんにちは!
幅広い制作領域を武器に「新たな驚きと感動を作る」制作会社ジーアングルの広報担当です。

主に映画館での新しい上映方式として「Dolby atmos(ドルビーアトモス)」という言葉を耳にする機会が増えてきていませんか?

日比谷のTOHOシネマズさんで煌々と輝くドルビーアトモス

大ヒットとなった『トップガン マーヴェリック』『THE FIRST SLAM DUNK』でも多くの劇場で“Dolby Atmos(ドルビーアトモス)上映”が実施されていました。

「なんか普通よりすごい音響が楽しめるらしい!」くらいのテンションで数百円高くお金を払って、Dolby Atmosバージョンで鑑賞された方も多いのではないでしょうか。でも通常の上映方式とのはっきりした違いを認識することはなかなか難しかったりしますよね。

そこで今回は、ジーアングル恵比寿スタジオで長年チーフエンジニアを勤める“音響のプロ”に、、

  • Dolby Atmosってつまりなんなの?
  • これまでの音響と何が違うの?
  • 映画以外のシーンで聞ける?
  • 結局、これ流行るの?

、、といったポイントをがっつりとインタビューしてきました!

中山誠一:ジーアングルで長年チーフエンジニアを勤める「音響のプロ」。機材マニアの一面もあります。
目次

Dolby Atmosとは何者??

ジーアングル恵比寿スタジオ・チーフエンジニアの中山です。音響と機材マニアとして生きています。よろしくお願いします。

ーーここ数年で、プラス数百円払って「Dolby Atmos上映」を映画館で観るっていう現象が増えていると思うんですが、簡単にまとめるとDolby Atmosって何者なんですか??

もともとは映画音響用に開発されたサラウンドシステムですね。

これまでも「5.1チャンネル」とか「7.1チャンネル」といった名前を聞く機会はあったと思うんですが、こういったサラウンドシステムを一般家庭にも普及させよう、という動きが、2000年代初頭からヨーロッパで起こっていたんです。

でもあんまり流行らなかった(笑)。

ーーたしかに、なんかスピーカーをたくさん買わなきゃいけないっぽいし、一部のマニアックな方が手を出されているイメージはありました…

そのとおりですね。「サラウンドシステム」っていうくらいなんで、スピーカーを6個とか8個買わないといけないなど、ハードルが高かったですよね。

すべての製品がそう、というわけではないんですけど、一般消費者からすると「沼が深い趣味」みたいに見えていたかなと。

そんな沼深くにどっぷりハマった人が熱く語っています。

ではなぜ、今Dolby Atmosが来ているのかというと、多くのスピーカーが鳴ることで生まれる音響を、ヘッドホンでも体感できるようにしようぜ、という開発が進んでいまして。

こういう体感を“イマーシブ感”と言うのですが、今までもう一つ流行らなかった経験を経て、「ヘッドホンでイマーシブ感を得られれば一般の方にもっとサラウンドシステムが普及するよね」という動きが世界的に広まっているんです。

ーーそんな動きが!たしかにヘッドホンなら普及しやすそう!

その中で、今後標準的な音響システムになるだろうと言われているのがDolby Atmosになりますね。

これまでの音響となにが違うの?

ーー“イマーシブ感”をヘッドホン環境で作ろう、という世界的な流れがある、ということはわかったんですけど、これまでの音響とDolby Atmosとの具体的な違いってあるんですか?

これは専門的な言葉になってしまいますが、一言でまとめると、これまでのサラウンドは「チャンネルベース」という再生方式を取っていて、Dolby Atmosは「オブジェクトベース」という再生方式を取っている、という違いがあります。

ーーオブジェクトベース…?

「チャンネルベース」というのは、2チャンネルで録音したデータだったら2本のスピーカー、5.1チャンネルだったら6本のスピーカーに、“音を固定していた”んです。

映画館って場所によってスピーカーの数も違うので、スピーカーに音を固定した状態で作ってしまうと、上映される映画館の環境によって、制作したときの意図とは違う音響になってしまう、というのが当たり前で。

スピーカー環境が違うんだからしょうがないよね、という。

これに対して「オブジェクトベース」は、スピーカーに音を固定するのではなく、“空間を作って音を配置する”ことができるんです。

例えば観客に対して、映像的には「右上の空間」で鳴らしたかった音でも、チャンネルベースだと実際には「右の壁側にある全部のスピーカー」から音を出すしかなかった。

でもオブジェクトベースだと、ちゃんと「右上の空間」から音が聞こえてくるように設計ができるようになった、ということですね。

ーー今までより臨場感のあるサラウンドが楽しめるようになった、ということですか?

それもありますし、映画館それぞれの設備の違いによる音質の良し悪しや、聞こえやすい・聞こえづらいという環境差が、Dolby Atmosで音響を設計することで平均化される、というメリットも非常に大きいですね。

ーーへぇ~~!そんな効果もあるんですね!これって、そんなにサウンドマニアじゃない一般の人が聞いても違いがわかるものなんですか??

聞き比べたら分かると思いますよ。全然違うやん!ってなると思います。

音の奥行き、距離感がかなり変わりますからね。

これがDolby Atmosサラウンドの設定画面。12個のスピーカーを軸に、空間に音を設計していきます。右下の宙に浮く人の頭がシュール。

映画館以外のシーンでも聞けるの?

ーーあと、Dolby Atmosを用いることでASMR作品のクオリティも上がる、という噂も耳にしたのですが……

これはいわゆるバイノーラル録音の領域のお話になってくるのですが、バイノーラルって「HRTF(頭部伝達関数)」と言われる数値に基づく処理をしていて、人間の頭の形や耳の形を考慮してサラウンドを設計しています。

そもそもASMRが「HRTF」に基づいたバイノーラル録音をすることで、ヘッドホンの“イマーシブ感”を高めることを目的にしているので、Dolby Atmosととても相性が良いと思います。

ーーということは、映画館以外のシーンでも、Dolby Atmosの音響を楽しめるようになってくるんですかね?

実はもうけっこう前からなってまして。

Dolby Atmos自体は映画用に設計されたものですが、ある時期から「Dolby Atmos方式で音楽をミックスしてみたら意外と良くね?」というのがバレて、エンジニア界隈で流行が起こったんです。

そしてあまり知られていないのですが、Apple Musicで2021年6月からDolby Atmosでの配信ができるようになりました。これを皮切りにDolby Atmosで作りたい!というアーティストが増えましたね。

ご存じの通り、Apple Musicってたくさんの曲が配信されているんですが、Dolby Atmos対応の曲には「Atmos」っていうラベルがついてレコメンドされるようになってるんですよ。

こういう効果もあって、知らず知らずのうちにみなさんが耳にする音楽はDolby Atmosが標準的になりつつある状況なんです。

著名アーティストの楽曲に「Dolby Atmos」というラベルを目にされた方も多いはず!

ーーApple Musicで対応しているということは、我々が普段使っているスマホから普通に聞けるってことですか?

最近の端末や最新のOSだと、設定の中に「空間オーディオ」っていう項目があると思うんですよ。これをONにしておくと、楽曲のデータが対応していれば気軽にサラウンドが楽しめることになります。

ただし、現状ではAppleのAir Pods MaxやAir Pods Proなどの、ヘッドホン側でサラウンド機能を持つアイテムを使ってもらった方が効果は顕著になりますね。

(すごい早口で)さらに付け加えると、Apple製品のヘッドホンはApple独自の仕組みで音を出力していて、Dolbyでエンジニアが設定した音と、Apple製品から鳴る音がかなり離れちゃうことが多いんですよ……。ここは今、絶賛研究中の領域だったりします。

(さらにすごい早口で)やっと最近Air Prdsシリーズでミックス中にモニターできるようになったのですが、バイノーラル2チャンネルとけっこう鳴り方が違うので、ミックスを仕上げるのが大変なんです。

すっごい熱弁

ーー(やばい本当に沼になってきた)えっと、つまりApple MusicとApple製品のイヤホンでも、本当のDolby Atmosの音響は楽しめないってことです……??

そこは難しいんですが、とにかく「スピーカーで聞いてる臨場感を再現する、イマーシブ感を出す」をみんな追求していて、その最先端がDolby Atmosです。

で、ヘッドホンとかのAV機器はこれからまだまだ発達していくと思うのですが、まず音源がDolby Atmosで設計されている時点で、Appleなどの対応ヘッドホンでなくても、音響の違いはわかるレベルになっていると思いますよ。

ーーなるほど、安心しました(笑)。

今後も流行るの??

ーーどうしても気になるので聞いてしまうんですけど、これって今後もどんどん流行るんですかね?

音楽のミックスにおいては標準的になっていくと考えています。

「Dolby Atmosはキャンバスが広い」ってよく言われるんですが、今までの2チャンネルをベースとしたミックス作業だと、いろんなところで鳴っている音をギュっと2つのスピーカーに詰め込む、っていうのをやっているんです。

そこでぶつかってしまう音は、バランスを取るために様々な処理でそぎ落としたり、整理したりしているんですよね。

その点、Dolby Atmosはそういった処理をしなくても、広いキャンバスにリアルな音を配置して再現することができるので、よりみずみずしいサウンドをユーザーにお届けできます。

デメリットとしてはデータが重くなること。昔はPCを2台用意して、音源の再生とDolbyのレンダリングを別々にやっていたくらいです。

近年はハードもソフトもどんどん進化して、1台のPCでエンジニアの作業が完結できるようになったのも普及を後押ししていると思います。

ーーユーザーが気付かないうちに、音楽を楽しむフォーマットがDolby Atmosになっている可能性が高いよ、ということですね!

ジーアングルはドルビーアトモスのミックスに対応しています!

こういったムーブメントに先駆けて、ジーアングルでは2019年からDolby Atmosでのミックス・プリプロダクションに対応したスタジオ「G-angle STUDIO”離れ”」を運営しています。

こちらがDolby Atmosでのミックスに対応したG-angle STUDIO離れ「響」ルームです。
実際にDolby Atmos音源を対応スタジオで聞いてみると、音の広がりが違うのがわかります。

リリース済みの音楽作品のDolby Atmosミックス作業や、ASMR作品の収録、ミックスに対応しておりますので、ぜひ臨場感の違いをご体験いただきたいです。

詳細はホームページをご確認いただければと思います。

以上、中山が解説しました!お問い合わせはお気軽にHPからご連絡ください!

今後も当ブログでドルビーアトモスに関する最新情報を発信していく予定ですので、ぜひ続報をお楽しみにお待ちください!

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